僕が事務所に入ると同時に、20人位の女性が一斉に僕を見ました。
(ええ、ホントに?ホントにこの人達が?ホントに主婦なの???)
昨日、社長さんから聞かされていた通り、年齢は僕より上と思える女性ばかりが机に向かって座っていました。自分の机がある人もいれば、数人が長机に座っている場所もあり。でも、全員が全然主婦っぽくないんです!
全員がスーツを着込んで、髪もメイクもきっちり決まっている人達ばかり。所帯じみた人なんて一人もいません。ていうか、美人ばっかり!!
(ちょっと、おいおい、何だこれ!)
驚いてポカンとしている僕にお構いなく、社長さんが話し始めました。
「みんな、ちょっといいかな。今日から夜だけ仕事を手伝ってくれる里中光一君だ。みんなの集めたデータを彼がまとめてくれるから、よろしく頼むよ。」
「はーい、よろしくお願いしま~す!」
キビキビとした動きで全員が立ち上がり、僕に会釈をしてくれました。それと、僕に注がれる視線が熱い!断っておきますが、僕はそんなにいい男ではありません。だから、こんな大人数の女性から好意的に熱い視線を送られたのは初めてです。熱いというか、色っぽい視線なんですよホントに!
「びっくりした?ハハハ、おい、大丈夫か?」
驚きですっとぼけた表情をしていたのでしょう、僕は。社長さんはそんな僕を見て笑います。
「おーいみんな、彼はオバサンばっかりいると思ってたみたいだぞ!顔に書いてあるよな、アハハハ」
僕の心の中を見事に言い当てた社長さん。社長さんの言葉を聞いて、女性陣も声を出して笑っています。
「なんでスーツ着て、綺麗な人ばっかりなんだって思ったろ?この人達は実際に小売店やキャンペーン会場でアンケートを採ったりデモをしたりするから、ちゃーんとスーツ着てるし、それにある程度の見た目の人しか採用できないんだよ」
他にも社長さんは細かく説明してくれましたが、とにかくクライアントの意向もあって、容姿端麗とまではいかないまでも、まあまあいい感じの女性がいいのだと。(詳しくはすいませんが書けません)
しかも年齢や属性として既婚の女性が良いのだと。僕の仕事としては、彼女達が持ち帰ったデータを、夜の3時間弱を使ってまとめるということです。入れ違いに彼女達は仕事終了となるようで。社長さんの説明を聞きながらも、つい視線は人妻さん達の方へ向いてしまいます。
オフィスの中は彼女たちの香りが充満していて、濃密な雰囲気。彼女達も僕を見ながら、小声で囁きあったりクスクス笑っていたり。女子校の先生とはこういう気分なのかと居心地の悪さを感じてモジモジしてしまいました。
「さなえちゃん!じゃあ今日、少しいいかな?さっきの件、彼に仕事のやり方教えてあげて」
「はーい」
どうしたらいいか分からず突っ立っていた僕を気にせず、社長さんは「さなえちゃん」という1人の女性を呼びました。どうやらこの人が僕に仕事を教えてくれるようです。
「佐伯です。よろしくお願いします。」
深々と頭を下げ、「さなえちゃん」と社長に呼ばれた女性は挨拶をしてくれました。
「そうそう、佐伯さんね。いつもさなえちゃんて呼んでるから名字忘れたよ」
また笑いながら社長さんが言い、予想通りこの人が僕に仕事を教えてくれることに。
「じゃあ悪いけどさなえちゃんよろしく。」
用事があるからと言って、社長さんは出ていきました。
「じゃあ、あの机を使いましょう」
佐伯さんはオフィスの隅にある机を指さしました。周りでは仕事を終えた女性達が帰り支度をしています。その机に座り、待つこと数分。佐伯さんが紙の束を手に持ち戻ってきました。
「あ、みんな帰る前に聞いておかないと。ねえねえ、明日でいい人?」
佐伯さんが大声で声を掛けました。すると全員が「はーい!」と手を挙げ返事をします。
「じゃあ明日にしようねー。ねえ、明日も仕事来るよね?」
「あ、は、はい」
「明日の夜にね、歓迎会したいんだけど。どう?」
「ええっ?歓迎会って、僕のですか?」
「そうよ、決まってるじゃない!」
「えーっ!だって、今日入ったばっかりですよ僕は」
今日が初バイトだというのに、もう明日の夜に歓迎会?面食らって素っ頓狂な声を出してしまいました。
「いいのいいの、とにかく理由作って飲みたいだけだから!」
特に断る理由もないし、断れるはずもありません。OKをすると佐伯さんは嬉しそうに
「明日いいって!じゃあ7時からにしよっか?」
うんうんと全員が頷き、明日の夜いきなり僕の歓迎会が開かれる事になってしまいました。
「こっちの出身じゃないよね?里中クン。こっちの女は飲むよ~!」
佐伯さんが大声で言うと、女性全員が大声で楽しそうに笑います。少しばかり恐怖を覚えましたが、どうしようもありません。
「じゃあ明日ね」と佐伯さん以外の女性陣はそのままオフィスから出ていきました。
「ちょっとばかり仕事しよっか!」
気持ちを切り替えたのか、キリッとした表情になった佐伯さんは、持ってきたデータについて説明をしてくれ、集計の方法やパソコンへの入力、分析について教えてくれました。この後はひたすら3時間、みっちり仕事を教わりました。特に難しい事はなかったのが救いです。
9時過ぎに一通りの説明を聞き終わり、仕事終了。単純作業な作業とは言え、新しい仕事というのは緊張し、疲れます。
「じゃあ今日はここまで。私がオフィスの鍵締めて帰るから、お先にどうぞ」
では失礼しますと挨拶をしてその日は会社を後にしました。
(仕事は何とかなるとして、あの雰囲気は凄いなあ)
オバサンばかりの職場という予想をいい意味で裏切られ、色っぽい女性ばかりに囲まれての仕事がどんなものなんか不安を感じました。ちらっと見ただけでも4、5人はいわゆるベッピンさんがいましたし。
人妻さんの色気に当てられたのか、帰宅するとドッと疲れが出て、軽くシャワーを浴びてベッドへ。いつもは体力を持て余した状態で床についていたので寝付きも悪かったのですが、この日はベッドに潜り込んで数秒とたたず深い眠りに落ちてしまいました。
翌日。本業?の会社へ。
昨日、女性ばかりで活気に満ちあふれた会社の雰囲気を味わうと、何てどんよりとした雰囲気なんだここは!と思ってしまいました。このゆるさがあるからこそ、副業が出来るんですけどね。
僕に仕事を紹介した先輩は、1ヶ月間の長期出張に出てしまっていて不在です。先輩がいれば、あの会社の感想を話したり、女性陣との接し方について相談出来たりしたのにと恨めしく思いましたが仕方ありません。とにかく普段通りに仕事をこなし、そしていつも通りの時間に仕事を終え会社を出ました。
「そうだ、今夜飲むんだ!」
7時から僕の歓迎会をやってくれることを忘れていました。仕事2日目が飲み会でいいのかと思いつつ、昨日佐伯さんから聞いた待ち合わせ場所へ向かいました。
待ち合わせは居酒屋。7時前にその居酒屋に入ると、すでに副業先の女性陣は居酒屋の個室にいました。というよりもう飲んでました。
「おそーい!」
個室にいる女性達から一斉に声が掛かります。罵声に近い感じで怖いんですけど。
(だって7時って言ったじゃないですか)
そう思いつつも、引きつった笑顔を浮かべながらペコペコと謝る僕。情けないですが、女性陣の迫力には勝てそうもありません。
「お詫びに脱げー!!」
ギャハハッと笑いが起きます。まだ佐伯さん以外の名前を知らない僕は、見知らぬ女性からそう言われてタジタジです。
「もう、だめよあんまりいじめたら!まだみんなのこと知らないんだからっ!」
佐伯さんが取り入ってくれ、助かりました。
「ごめんね、みんなお酒入ると乱れるから」
「え、ええ、大丈夫です…」
「ほらっみんな!主賓が来たから乾杯しよっ!」
佐伯さんのかけ声でそれぞれがグラスにビールを足し始めました。
「じゃあ、挨拶して。いい?」
佐伯さんに言われ、僕もグラスを持ち立ち上がりました。
「えっと、昨日から…」
簡単な自己紹介と挨拶を済ませます。それにしても何人いるんだ…ざっと数えただけでも20人はいます。しかも美人揃いときた。あまり年上に興味がない僕から見ても、綺麗としか言いようのない人達ばかり。
(これが、人妻の色気かあ…)
生まれて初めて、年上の女性の魅力が分かりました。昨日のオフィスと同じように、この居酒屋の個室も人妻さん達の香りとフェロモンでムンムンしています。全員お酒が入っているんだから尚更です。
「それじゃあ乾杯ね。いい?かんぱーい!」
かんぱーい!とみんなが声を出し、ほぼ全員がグラスに入ったビールを一気飲み。
(凄いな、この人達)
感心する間もなく、あちこちから「もうビールいいや、焼酎頼んで!」「私ワイン!」と次々にお酒のオーダーが。マジで酒豪ばかりだわ、これ。
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